■ミニスキーで山を滑る

残雪期に,1mにも満たない短いスキーで山を滑るのは楽しい。つぼ足で歩いてもあまり沈まない残雪の山をステップターンで滑ると,板も軽いのでリズムにのって歩くように滑れて気持ちいい。スキーが短くて前後のバランスが悪いので,両足を揃えてパラレルできれいに滑ろうとしてもバランスとるのが大変であまり快適でない。スピードに乗ってほとんど片足ずつ滑るぐらいの気持ちで滑ると非常に快適だ。

ミニスキーは自分の知っている範囲では,東京周辺だと池袋の秀山荘,新大久保のICI石井,水道橋のサカイヤなどでよく売っているようだ。銘柄・種類もいろいろあり,最近はカービングスキーのように板の中央部が大きくくびれた板も出ている。価格は2〜3万円するが,板が短いのでbindingに解放機構がいらず,スキー靴や兼用靴を固定するだけの簡単なbindingも含めた値段なので,すでに山スキーやゲレンデスキーの用具を一式持っている場合は板を買うだけで使える。なお,ミニスキーの紹介といっても自分が4年ほど前にたまたま購入して,ここ2年間残雪の山で愛用している KURZ(クルツ) という長さ65cm,ずんどうで重さは2kg(締具込み両足分)での経験に基づく独断的評価です。スキーの技量や板の種類によっては話が違うかもしれない点は割り引いて読んでください。

登りでは,短すぎてふつうの山板やテレマーク板のように滑走面にシールを付けて登るメリットはないので,もっぱらかついで登ることになる。その意味でもつぼ足であまり沈まずに歩いて登れる山で使うのがいい。登りはザックに付けてかつぐが,普通の長い板のように振られたり木の枝に引っかかったりしなくてよい。

滑降は沈まない雪ならば冒頭に書いたように非常に快適だ。板がわずかに沈むぐらいなら滑れる。が,片足に過重するとトップまでもぐってしまうぐらいになると,ステップターンでなく常に両足に均等に荷重して滑らないとならなくなって,こま鼠のような小回りターンはできるがあまり面白くなくなる。両足荷重でもトップが沈むような雪はまず滑れない。最悪は表面だけ固くて中が柔らかいモナカ雪で,長い板ほど体重が分散しない分 表面の皮をつき破りやすくて,一旦つき破ると足からトップまでの長さが短いのでトップも一緒にもぐってしまって手におえなくなる。歩いて降りた方が早い。自分が最初に山でミニスキーを使ったときがまさにこの状態で,鳥海山の御浜小屋から滑り出した斜面で四苦八苦してこんな板は山では使えないと思った。それが,斜滑降もままならないまま少し下って沈まないザラメ雪に変わったとたんに冒頭のような快適な滑りに一変して驚いたものです。

とにかく,沈む雪で×,沈まない雪で◎という,残雪期の山に向いたスキーだ。

 

■ミニスキーでの山の滑降記録例

最近のミニスキーでの滑降記録の例を添付する。「掲載誌」の欄の「NIFTY:FYAMAALP/MES/12/1713」パソコン通信NIFTY-SERVE FYAMAALPフォーラムの12番会議室(山岳スキー)の発言番号1713, 「BergS-21 p53」はRSSA(スキーアルピニズム研究会)の会誌『ベルクシーロイファー』21号の53ページを示しています。この中から自分で滑ったいくつかをざっと紹介します。

●鳥海山・鉾立-御浜小屋 往復

前述のとおり,上部は悲惨だった滑降が中盤から一転して,ブルーラインの上の斜面で何度も登り返して楽しんだ。(96/05/03)

●尾瀬・大清水-荷鞍山 往復

テレマークvsミニスキー宿命の対決。森の中で木々の間をぬって小回りし,雪面に落ちた枝を飛び越して着地するとともに快適なステップターンの大回りに移るなどということを繰り返して楽しめた。テレマークではそういう機敏な滑りは苦手のようでだいぶ待たされた。(96/05/12)

●尾瀬・御池-燧岳-上田代-御池

4人で行ったら,偶然にも山板,テレマーク,ゲレンデ板,ミニスキーと揃ってしまった。登りはつぼ足だったので軽くて邪魔にならないミニスキーの勝ち。斜度のある下りではどれも快適に滑れたが緩くなるとテレマークの勝ち,踵の上がらないミニスキーの大負けだった。(96/05/18)

●北アルプス・毛勝谷

山板の2人と一緒に行った。山スキーのシール登高は残雪期の雪渓登りでもかなり有効で,ツボ足で遅れまいと必死に追ってばててしまった。毛勝谷は両側が急で落石の危険があり,ガスっていたこともあってストレスのたまる登りだった。上部はかなりの急斜面で,ザイルを結んで歩いて下る人も多い横をミニスキーで落ちるように滑った。下部はスプーンカットで疲れた。(96/06/01)

●北アルプス・猫又谷・釜谷

猫又谷支流の釜谷は大滝(1440m)に行く手を阻まれてそこから滑降する。落石の危険も少なく,緩い気持ちよい谷だが,スプーンカットの連続で膝をやられてしまい,そのあと登った猫又本流は1人だけ1600m付近で諦めることになった。同行の山板の2人は猫又谷のてっぺんから滑って抜群に快適だったという話をあとで羨ましく聞かされる結果になった。ミニスキーは短いのでスプーンカットを滑ると振動がモロに膝にくる。(96/06/02)

●栗駒山周辺

栗駒いこいの村に泊ったとき,早起きして朝飯前にイワカガミ平から栗駒山を往復してきた。登りは山頂直下まで全く雪のない尾根沿いの登山道を素早く登り,下りは谷沿いに99%滑ってこられた。同じ日に車で旧栗駒有料道路(冬季閉鎖中・現在は無料)に回り,秣岳北西尾根を秣岳手前のコブまで登って滑ってきた。ブナ林の緩斜面の気持ちよい滑降だった。(97/05/02)

●富士山・白草流

御庭から七太郎尾根をお釜の直下まで登り,わきの白草流を滑った。アイゼンなしでは危険になるぎりぎりのところでちょっとした棚を見つけてそこで板を装着して滑り出したが,上部は急すぎて緊張し,中間部も急でひたすら腿の筋肉で重力と遠心力と振動に耐えるような滑りしかできず快適さは今いちだった。下部は雪も傾斜も緩くなったが石を避けるのが大変だった。こういう長大な急斜面はかなり足腰を鍛えて臨まないと楽しめないようだ。(97/05/11)